北海道カヤック旅
濤沸湖

- 濤沸湖(トーフツ湖)
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濤沸湖日記 2006年07月10日
海を背にして湖の方を見ると
大きな湖の中の中州の草原にあざやかにオレンジが光っていて
あれは
あの色は
エゾスカシユリの橙
自分がフネなんか持ってるるんだぜと思うと
気になって仕方ないのだ
水の真ん中にある、誰も踏み分けていない島やなんかが
あの歌はなんだっけ
額田王の船出の歌
あ、「今は漕ぎいでな」だ
どんな歌だっけ
熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎいでな
ああ、そうそう
花が待ってるし
短い北国の夏が爛漫な訳だし
私あのユリのとこ行きたい
ちょっと、フネ、フネ
湖の端の誰が使うのかしらない小さな船着き場で
日の出色の折り畳みカヤックを組み立てる
舟というものは大きかったり重かったり
陸上ではそうスマートなものでは無いわけで
パシンパシンと虫を叩きながら30分
ようよう真っ赤な舟の形になる
水とおやつと防寒着を持って
周囲28km、面積900haの湖を半日の旅の予定で船出
最大水深2.5m、平均水深1.1mという浅い水の上を
底をこすらないように用心しいしい岸の側を渉る
湖というものはどうやらみたところ
あんまり透き通った水ではないのだよな
海水と淡水の養分が混じった栄養豊かな水と言われる汽水湖を
いろいろなぬるぬるした草が櫂にからみつくのを見ながら
青空の下をまっすぐに花の咲く中州に向かって何キロも漕いで行く
頭の上を翼を広げた鳥が飛ぶのが気になって仕方ない
あれはトビだよねえ
あれは?なんか大きいぞ
大きいトビ。いやワシ?
普通は渡り鳥として冬の間やってくるオジロワシの中には
このオホーツクに住み着いて留鳥となっているものもいるのだとか。
そう聞くと妙に気になる。
あれはワシかなあ…トビかあ…
時々ヨシの中にずぶずぶとはまりながら空を見上げて湖をわたっていく
遠くに立つアオサギが
真っ赤な舟に驚いて飛んで逃げるのを追いかけるように
まだ午後浅い日差しの中を西へ西へと乗り込んで進む
底を擦るほどの浅瀬に入ると舟を下りて舟を引っ張りながら陸までしばらく歩いた
小さな魚が沢山
死んでいるものも随分と居る
それから小さな巻き貝が無数に
巻き貝の全てにすーっと砂を掘った筋がついているのは
なんと貝の足跡なのだ
暖かい水の中を踏み分けて歩く
流されないように舟を上げておいて
ビーチサンダルを履いて
中州の深いところへ草を踏み分けながらもっと歩いていく
誰も入ることのない湖の上の小島は深い草で覆われて
裸足の足を色々にひっかく
確かエゾスカシユリが見えたのがあの辺だ、と
どんどんどんどんと遠くまでゆく
深い藪の中
ハマナスの茂みの中
歩いても歩いても草ばかりで
はっきり言って
ハマナスの棘が足に痛くて痛くて
人がいないのを良いことに
べそをかいて歩く
痛いよお、足痛いよお
草ばっかりで面白くないよおお
帰りたいよお
そうしてぽつっぽつっとお花が見え始め
一気にお花畑に入るのだ
ハマナスの濃い赤と
エゾスカシユリのオレンジと
エゾキスゲの黄色と
それからヒオウギアヤメの青と
とにかくそれはもう見たこともない程満開の自然の花畑だった
足が痛い痛いと文句を言いながら
半ば口を開いたまま
ただあんまり鮮やか過ぎるような花畑を見る
どうしてこんなところにこんな物があるのだろう
ぐっと背景にそびえる知床の山々を背負って
今が盛りと咲き乱れる花は
誰が来ようと来るまいとお構いなしに
きっと毎年やってる通りただ黙然と今年もここに咲いたのだ
うん
来てよかったよね
まだべそかいてるけどさ
でも痛いからそろそろ帰ろうか
振り返り振り返り
誰も見ていないにしてはあまりにも華やか過ぎる花畑を
また静寂の中に返しながら
そうやってもう一度舟を目指して藪に戻っていく
気付いていれば二時間も
棘だらけの藪を歩いていたんだ
ちょっとずつ重くなっていく西日を背にして
ちょっと涼しくなった湖をぐんぐんと横切っていく
遠く国道の上に観光バスが走っていくのが見える
向こうからも見えているかしら
おーい
私は28年も生きて歩いてる訳だけどさ
思えば道の上ばっかり歩いてきた事だ
道をそれたら満開の花畑が有るなんて
どうやらあんまり考えずにもいたもんだよ
おーい
