北海道カヤック旅
コムケ湖

- コムケ湖
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コムケ湖日記 2006年07月29日
黙って立っているだけで
どこからともなく海水浴の匂いがしてきそうな夏の空の下
コムケ湖に舟を浮かべに行ってきた
オホーツク海に面した、海と繋がる湖で
私の住む町の隣町紋別市の隅っこに位置する。
原生花園を擁し、中には200種を超える野鳥が住んでいるそうな
それでも湖周辺は殆ど朽ちたような古い番屋があるくらいで
時から見放されたようにしてたたずむ湖
どうしてここにこんな静けさが残っているのか
いつも少し不思議に思う
東岸のキャンプ場から回り込んで浜沿いを走る静かなダート道を入っていく
右手には海、左手が湖
みっつの湖が繋がそれぞれが水路で繋がった形の湖だ
東側から長男、次男、末っ子と名付けた湖の
次男と末っ子をつなぐ橋の下で舟を組み立てることにする
見渡せば一面草原が薄紫をしているのは
ひらひらと枝垂れる打ち上げ花火のような
涼しげな形をしたエゾカワラナデシコの花園に囲まれていた
中にすこし、マーガレットの白が混じって咲いている
ねえ、海と湖に挟まれたこんなに可愛らしい花園を
誰も見に来ないでそっと時の中に残してあるだなんて
なんとも不思議なようだね
朝焼け色の舟を組み立てていると
橋の上をふたりの子供が自転車で通っていく
「なにしてるんですかー」
「舟を作っているんだよー」
「わたしたちは海へ遊びに行くんですー」
「行ってらっしゃーい」
答えながら笑ってしまう
今、知らない人を怖がらないのは田舎の子供だけなのだ
大きな学校では大抵知らない人は犯罪者かもしれないと教えているので
何だか分からないことをやっている大人に声を掛ける子供はいない
小さな小さな小さな町の子供だけが
見たこともない旅人に向かってこんにちはと言ってくれる
暖かくって、よかったね
今日は海水浴日和だ
橋の下から舟を降ろして次男湖へ強く流れが走っているところ
逆らって末っ子の方に乗り込む
ずっと葦の原
どの湖でも特に珍しくはないアオサギが
ギャーと恐竜を思わせるしわがれ声で強く鳴きながら
首をきゅっとS字型に折りたたんでゆうゆうと光る空を飛んで行く
鳥は恐竜の子孫だそうだ
いや、本当かもしれぬ
しかしいつも憶病で、
浅瀬に沢山の群れで立っていて
こちらの姿が目に入るや、逃げる
場合によってはノネズミまで食べるという恐竜の子孫にしては
随分優しい平和主義者達なのだ
驚いて次々と飛び立つアオサギに混じって
葦の中の低いところで音がする
あれよあれよという感じで
茶色い産毛のカモの一家が
水の上をバサバサと走りながら葦の草むらのもっと奥深いところに逃げ込んでいった
その数恐らく七羽ほどもいたろうか
あまりのことにしばし呆然
鳥って、水の上を走るのか?
水鳥なのに、飛ぶとか泳ぐとかしないのか?
まあ、人間とアオサギでよほど驚かせてしまったんだね、気の毒に気の毒に。
カモの子ども達はもうあんなに、大人と同じくらいの大きさになっているのだね。
灼熱の太陽の下で
随分と塩分の多いこの湖は
あっという間に体から塩が吹き出してくる
末っ子を回ってから
一度上陸して珈琲を沸かしてのみ
次男湖を回ってきた
時折りカモが葦から踊り出てきて
大袈裟な音を立てて水面を叩きながらやっとの思いで
長い時間を掛けてようよう空へ飛び立つのは
きっと葦の中にいる可愛い雛たちを守っているのだろう
お母さんが不器用そうにしている間に
子ども達はみんなで葦のもっと深いところへ走って逃げて
きっとそうやってみんな大きくなってきたのだ
午後四時
コムケ湖の長男は回りきれないまま舟を引き上げる。
明日は隣のシブノツナイ湖を回ろうね
舟を畳んで、湖の東岸にある国際キャンプ場へ引き上げる
冗談のように沢山光る星々の中に
すーっとレースのリボンのように天の川
流れ星を見ながら暗闇で珈琲を一杯飲んで
風の動く布の家で眠る
星の天幕と暖かい風が肩にふわっと掛かっている
夏の夜
