北海道カヤック旅
シブノツナイ湖

- シブノツナイ湖
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シブノツナイ湖日記 2006年07月29日
「てっぺんたかたか」
「てっぺんたけたか」
と凄くきっぱりと小鳥が繰り返している
テント布の向こうが明るくなってる
朝だ
まだ眠い
外は朝だ
鳥が呼んでる
そうだ、ここは湖の畔で
昨日から舟に乗りにきてるのだ
目覚めというのは
離れた世界からこちら側へ帰ってくる仕事であるような気がいつもする
つまり私がどんな時も結局は目覚めるのは
やっぱりこっち側の世界が私にとって何か魅力があって面白いからで
今日はカヤックの日だ、
と思ったら寝ぼけた瞼が開いた
熱い熱い珈琲を沸かす
この世ではなにもかも手遅れなのではないかというくらいの
元気いっぱいの速さでぐんぐん日が昇っている
大変だ
真夏が私を待ってるじゃないか
晩ご飯の残り物でおじやを炊いてかきこんで
テントを撤収して
飲み水を持って
キャンプ場から少し奥に入ったシノブツナイ湖へ
大急ぎで出掛ける
忙しい
忙しい
生きてるだけで忙しい
鳥が後ろで急かしながら見送ってくれた
てっぺんたけたか
てっぺんたけたか
小さな漁船がつないである少し開けた草原から舟を降ろす
岸から乗り混むには草に阻まれて場所が狭いので
少し湖に踏み込んでから乗る
水が冷たい
すっっと音もなくスムーズに舟が動いた
別に何の珍しいものが目に飛び込んでくるでもないが
車通りがもともと全く無い上に水の上から道路が見えない、
お隣のコムケ湖よりもさらに世から隔絶した感じがとても良い
世界の中に空と水と鳥と自分だけがいるようだ
ごくごく希に岸の上に何か建造物の屋根が見える
底はあくまでも浅く、
たまに漁の目印になる小さな三角の旗が立っている
そういえばシジミ漁をするって書いていたなあ、
手突っ込んだらシジミがいたりしてねー
っと湖の底にぐっと手を突っ込んでみると、四十センチほどですぐ底にさわり
砂を握りしめてみたら手の中にシジミ貝が三つ入っていた
しじみだあ
あはははは
舟の上から手を突っ込むとそこにシジミがいるというのが
なんだか妙におかしくて
夢中になって砂の中を探る
いるいる、シジミがたくさん居る
このあたりのシジミは漁師さんたちのものらしいので
記念に大振りのものを少しわけて貰って
あとはまた静かな湖の底に返した
大きな湖でもないのに、舟がいくつか停まっていて
中にはシジミとりの罠を積んでいるものもある
働く舟がつないである風景って好きだ
しっかりつないである舟を桟橋代わりにして、ちょっと岸に上陸して見ると
誰もいないそこは地平線の果てまで続くエゾカワラナデシコのピンクのお花畑だった
遙か彼方まで草原で遠くに防風林の列がちらりほらり
漁船が並んでいる辺り、湖から細い水路がすっと伸びている
きっと海に出るのだろう、と思って進入した
何か不思議な、ダムのような、そうでもないような人造物に突き当たった
コンクリートの向こうで海鳴りが聞こえるばかりで
海も見えないし、潮の匂いもしない
なんだろう、なんだろうとしきりに言いながら湖にとって返した
そんな物なんだって別に関係ないもん、と
目を射すほどに鮮やかな青色に光る小鳥がさっと前を横切る
葦の草むら沿いをぐんぐん行くと
水のよどんでいる辺りでは随分ときついどぶの匂いがする
遠目で見ると湖というのは空と雲を正確に写し取る随分綺麗なものなのに
水上を旅すると匂いに息詰まらせることも結構しばしばあることなのだ
浅くなって舟が進まなくなったところでは
カヤックに手ぬぐいをくくりつけて引いて歩く
浅瀬の中の洲には
燕くらいの、小さなシロチドリが沢山ちょこちょこと歩きながら
しきりに湖底の虫を拾っている
こちらのことはあまり気にならないようだ
すいっと湖上を飛ぶ大型の影
尾がきらっと白く光って、森の木立のてっぺんに停まった
オジロワシだ
少し風が吹き始めてきて
真横から来る風に何度かあおられる
沈んで溺れる深みではないけれど
できれば落ちたくはないものだ
海のように波立ってきた湖面を
顔の黒いカモが一羽だけ
なぜかぼんやり浮きつ沈みつしている
なんだって、たった一人でこんなところにいるのか事情はしらないけれど
ちょっと風が出てきたからそんなど真ん中にいないで茂みの中へでも帰りなさい
聞いてか聞かずが、いつの間にか何処かへいなくなった
横風にあまり強くはないカヤックは、時々くらりと揺れながら
ばっしゃんばっしゃんと顔にまで水飛沫が飛んでくる
少し体が冷えてきたのでちょっと急いで上陸地点まで戻ることにした
朝の出港時から動いていない漁船の舫綱に
濡れた服をぶら下げて乾かしながら
下着のまんまで暖かい珈琲を飲んで
丁寧に水気を拭きながらカヤックを畳んだ
昼下がりの太陽の下
パンツとシャツでウロウロ歩き
自分のズボンが青空の下で風に揺れてるのを見るなんて
いやあ、そんなにお行儀の悪いこと
私は凄く大好きだ

