北海道カヤック旅
シラルトロ湖

- シラルトロ湖
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シラルトロ湖日記 2006年08月07日
釧路湿原という日本一広い湿地がある
なんでも一万年程前には海だったものが
海底に泥炭などが溜まり、徐々に海水も引いていき、
地面のぐちゃぐちゃした、湿原ができたらしい
谷間には海水が残ってそこは湖になった
そういう湖の中の一番小さなシラルトロ湖というところに遊びに行ってきた
冷泉橋という涼しげな名を持つ赤い橋のたもとから
すいっと暗い色の湖面に舟を出すと
あっという間ににいちごの葉の形に似た沢山の葉にとり囲まれた
よくみるとひとつひとつにあどけない小さな白い花がついていて
つぼみという程固くはないけれど上を向いて小さくすぼまっているそれは
赤ちゃんの生え始めの乳歯のように
ちょっとむずがゆそうな頼りない形をしている
オールに絡まって動きにくいのはたしかなのだけど
ヒシという名のその植物は見ていて楽しい若々しい眺めで
時々草をかき分けてすっと通る一本の筋が
誰かが舟を出した形跡なのかカモが通った跡なのか
考えてみるのも楽しい草の地図ができている
すぐ後ろの方でカモが不自然な大声でグワグワっと鳴いて
湖の真ん中の目立つ方に向かって大袈裟に泳いでいく
岸辺のすぐ側の葦の草むらの低いところで
茶色い産毛の生えた固まりがいくつかうごめいたような気がした
岸辺の草むらの方に舟を寄せてみると
湖上を泳ぐカモはもっともっと目立つ声でしきりに鳴きながら
こっちへこい、こっちへ来い、と懸命に私の舟を呼んだ
葦の中で小ガモたちはじっと息を潜めているだろう
親ガモが狂ったようにわめき立ててますますこちらを誘う
緩んだようなように温まった湖の上で
牙も鋭い爪も持たない平和な体のつくりをしたひとつの家族が
僅か持っているものを全部使って緊迫の戦いをしている
まったくそうだよね
ごめんごめん
誰だって、全部の命をかけてでもそっとしておいてもらいたいのだ
私が君たちに何もしないとしても
君たちはやっぱりそっとしておいてもらいたいのだ
もっともっと草むらから離れた湖の真ん中に向かって舟を誘導しようとする親ガモから距離をとって
また眠たくなるような湖の上、ヒシの花咲く中を周遊し始めた
あれ、あそこに浮かぶ黄色の丸い花は何だろう
カエルが座っていそうな丸い葉の上に太い首を出して
まるまるとした鮮やかな花を咲かせているのはネムロコウホネ
ちょっとやんちゃなユーモラスな形をしているので
ちょっぴり花をひっぱてみたらひゅっと10センチくらい水の中から太い首を伸ばした
はじめまして、こんにちは
黄色の花畑の中にひときわ美しい純白の花
まるで自然の形ではないようなよくできた輪郭を持つ真っ白な花は
エゾノヒツジグサというスイレンの仲間
見に来る人のないこの湖の上で未の刻にひっそりと美しく咲くらしい
真っ白な花弁の中から黄色のおしべが覗いて
よく見ると幼稚園生のお弁当の半切りゆで卵のお花にも似ているのだ
それから、地味な姿で湖面に白っぽい土筆のようにぽそぽそと立ち上がって生えているのは
エゾノミズタデ
水の上でこんなにお花畑が見られるなんて思わなかった
これは面白いものだなあ
ぬるいぬるい水の上を行く
櫂を持つ手を止めると、水草に絡め取られている舟も
すっとその場に停まって動かなくなってしまう
またゆっくりこぎ出すと
眠い午後のように重たく無言で動き始める
動かぬ水草の茎や根と問わず語らずの追いかけっこをする
一万年前の海の底
