北海道カヤック旅
然別湖
- 然別湖
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然別湖日記 2006年09月09日
両側からアーケードのように枝の張りだした山道を
くねくねと登っていくと
標高807メートルのところに隠れたような湖がある
北岸の野営場から舟を降ろす
透明度1メートル、クッチャロ湖のような底に引き込まれそうな恐ろしさこそないけれど
オホーツク海沿いの海跡湖の泥の色をした水に比べると格段に綺麗な色で
湖の魂が沈黙して沈んでいるように見える
緑色をおびたガラスのような光り方をしている
透明な湖には、きっと底の方に人間を呼び寄せる未知の生き物が潜んでんだろう
しかしながら、湖岸に全面禁漁の看板が目立って立っているのは
湖の魂を持つ謎の怪物の保護のためではなく
北海道天然記念物のオショロコマ(ミヤベイワナ)の保護のためだ
それから生きた化石とも呼ばれるナキウサギなど
貴重な自然が多く残る大雪国立公園の中の湖なのだ
西側の岸からぐるりと回っていく
鬱蒼とした木々を見上げて鳥の声を聞いていると後ろで不思議な音がした
振り向いてみると、なんということかアオサギが枝から落ちてきたのだ
中腰、というのか、どことなく中途半端な姿勢をしている
立ち上がろうとして大きな翼をばさばさと羽ばたくが足が何かに絡まっているかのように
うまく立ち上がれずにいる
息を止めてじっと見る
アオサギはあまり人に近づかない
たぶんこちらの舟が気になっていて、本当は逃げだしたいのだろうが
なんども立ち上がろうとしては失敗している
アオサギにしては、身体が少し小さい
若鳥なのだろうか
立ち上がることができなくては、もう死んでしまうのだろうか
為す術もなく見守ること10分ほど
そのアオサギはようよう立ち上がり、
それからすっと翼を開いて身構えると突然飛び立ち、
案外自然に湖の遙か向こうの森の中へ消えていった
やあ、飛んだ飛んだ、凄いなあ
よろけることも無く、まるで何もなかったように確信を持ってまっすぐ飛んでいくのを見て
彼はきっと大丈夫、元気で生きていくだろうと思うことにした
きっと寝ぼけて木からおっこちて、目を回していたんだよ
よかった
とってもどきどきしたよ
そうして私も朝焼け色の舟の船首を廻して安心して湖の旅を続ける
約3万年前の噴火で川がせき止められて出来たのだという湖を岸沿いにぐるりと回ると
ごろごろとした大きな石で埋まった川の跡のようなものが何カ所もある
土石流の跡なのだろうか
何かが死んだ跡のような寂しい風景
ややも行くと湖の真中に、小さな可愛らしい島が見えてくる
小さな社と祠が建っている
どうして水の上に小さな島があると、上陸せずには居られないのか、
その点はちょっと不思議なのだけど
でもやっぱり上陸はする
舟に紐をくくりつけて島から張り出した枝に結わえ付けて島の鳥居をくぐった
小さな部屋ひとつ分くらいの可愛らしい島だ
お祭りしてあるのは弁天様
足下に小さな木の実がいくつか見える
初夏にはコケモモが咲くらしい
新緑の頃はきっと一層可愛らしい島なのだろう
弁天島を出てまた西側の複雑な入り江を丹念にめぐっていく
何か純白のハトのような大きさの鳥が水面近くの低いところを
キャッキャッと枝から枝へ飛んでいくのだが
あれは何の鳥だろう
木の陰ではカワアイサが四羽何事か話しあいながらおろおろと泳いでいる
湖畔には小さなホテルが寄り添って二軒あり
ここから観光船が出ているが、随分と頻繁に出船しているので驚く
50センチくらいの高低差のある波を広げながら通り過ぎていくので
小さな人力舟であるこちらにとっては真横からまともに波がぶつかると転覆しないとも限らない
観光船が近づいてくると船首を観光船の方にむけ、正面から波を受けるように方向を調整する
観光船に乗っている方にしてみれば自分達が横を通った途端に
それまで横向きで走っていたカヤックがいきなりこっちを向いたゾということで
どうも愛想を振りまいているように見えるのか、10人くらい乗っているお客さんが
みんなにこにこしながら手を降ってきたりする
恥ずかしいことしきり
東側の岸は道路がなく、随分と静かな雰囲気になる
東雲湖という小さな湖まで遊歩道が延びているので
時折りチリンチリンと熊鈴の音が移動しているのが森の向こうからかすかに聞こえる
この辺りの岸に桟橋がありそこから上陸すると一キロほどで三大神秘の湖と言われる東雲湖に出ることができる、
というのを聞いて楽しみにしていたのだけれど、残念ながら当の桟橋は見あたらなかった
かつては観光船が上陸して東雲湖の見学もしていたという話もきいたが
もしかするとあまり人に踏み荒らされないように桟橋は取り払われたのかもしれない
岩の上にシマリスが立ち上がって鼻をぴくぴくと動かして何事かを調べていた
湖岸のあちこちで目立つ鮮やかな紫はタイセツトリカブトの花だ
枝枝から垂れ下がる葉の色が少し水気が抜けた乾いたような色をしている
もう半月も立てば紅葉が始まってしまうのだろう
この静かな湖の紅葉はさぞ見事ではあろうが、何か寂しい心持ちもする
ぐるりと一周して北岸の野営場にもどる
このキャンプ場で今日は野営
発電機一台のみでトイレと駐車場に灯りをともすだけで
夜には真っ暗になる静かな場所だ
日暮れ時からぐんぐんと雲が迫ってきて星のない夜になった
他にも数名いるキャンパーがそれぞれ額に小さなヘッドライトをつけてちらちら動いているのが見える
闇の中にみんなでひっそりと閉じこめられて
湖と闇の親密な雰囲気の夜がやってきた

