オホーツクの花や風

北海道の遊歩道

大雪山系永山岳登山

ナキウサギ

  • 今回のコースは愛山渓温泉〜永山岳〜安足間(あんたろま)岳〜当麻岳と稜線を歩き 当麻乗越(のっこし)で道に迷って引き返してきました。当麻岳まで五時間程度でした。 帰路は膝の調子が悪かったので下山までは九時間も掛かってしまいました
  • それほど登山者が多い山ではないので、道がわかりにくい部分があります。
  • 急な勾配や滑りやすく足場の悪いところが多くあります。軍手があると便利
  • とくに当麻岳付近では人も少ないのでナキウサギの観察にはよいスポットと思われます
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    → 大雪山系永山岳登山 日記 2006年10月06日


    大雪山系永山岳を上りにいった 朝七時、登山口の愛山渓温泉では すでに三人組の男性の一団 が、さもうれしそうに準備運動をしていた 今日はどこまで?と聞かれるので とりあえず一番近くの永山岳まで、と答えると さあ俺たちはどこまでついていけるかなあ、はっはっはと 陽気そうに笑い、よく目立つ黒いゴム長をピカピカ光らせてストレッチをしていた 定年してからこれで登る山は三つ目だよ、わっはっはと言って 頭をふりふり山に入っていく 山に入る人はたいていいつもより少し陽気になっているものだけど こんなに陽気そうな人々も珍しい いってらっしゃい、いってらっしゃいと黒いゴム長にひそかに声をかける

    さてこちらも登山口の看板でルートを改めてチェックしていると
    もうひとり声をかけてくるおじさんがいる
    「山岳マラソンで北鎮岳まで行くんですよ、昼前には着きますよ」
    山岳マラソンって一度だけニュースでちらっと見たことがある
    冗談みたいだけど本当に山岳でマラソンをするわけだ
    おもわずひえっと妙な声を出す
    どれほど競技人口の少ないスポーツだろうと思っていたら
    図らずも生で本物を見てしまった
    普通は一日かかるコースを数時間で走ってこようという目論見なのだ
    ぜひとも抜かされてみたかったので、わざわざ先に上り始める

    前日にでも雨が降ったのか、非常にぬかるんですべる道を
    前足と後ろ足をフル活用して四足歩行でたらたら上る
    先に出発したジェントルマン三人組みは相変わらず陽気でかなりなスローペースで歩いているため
    お先に失礼して進む
    歩き始めて二十分くらいで後ろからほとんど何の気配もなくいきなりマラソンランナーが現れ
    こちらに微か微笑みを残して瞬時に視界から消えていった
    腰に小さなウエストポーチと、なぜかナイフをぶら下げているだけで
    コンビ二に買い物に行くより軽装だ
    えー、あれでいいの、大丈夫なの、水十リットルくらい担いで走るのかとおもっちゃったよー
    と一人盛り上がってみる
    世の中にはいろいろな人がいるものだ
    帰りにもう一度抜かれてみたい
    ルート違うけど

    黄色く色あせている山の空気はセピア色で
    細く長い滝や真っ白に沸き返る小川の水音が爽やかだ
    ところどころ看板が立っているのだけど、もう色が飛んで読むことはできず
    ごく単純な道しるべになっている
    上っていけばいくほど笹や這い松で道がわかりにくくなっているところも増え
    上る人の少ない山であることをなんとなく思わせる
    本当は
    百名山に掲載されていたり、
    あるいはロープウェイやら引いていなければ
    わざわざ山にやってくる人なんてこの程度なのだろうか
    前から後ろからからころと熊鈴に追いかけられないでよいのはのんびりしていいものだ

    這い松地帯に入ると
    岩の上あるいは岩陰にびっくりするほどの量の這い松の実が落ちている
    きちんと鱗片をはがして種を食べてある
    その食べかすをなぜかあちこちに貯めてあるのだ
    ここらにいる、這い松を食べる生き物は
    ナキウサギかホシガラスかエゾシマリスだろうが
    ホシガラスならわざわざ岩陰に食べ残しを運んだりはしないだろうし
    ナキウサギはこんなに見晴らしのいいところで食事はとらなさそうだから
    やっぱりシマリスの食堂なのじゃないかなあ、と思う
    およそ、リスが食べました、って分量ではなく、
    どちらかというとビール好きの人がピスタチオをつまみ始めたら
    美味しくてとまらなくなってしまった、というときの皿の上みたいな
    まあ、ちょっと凄いことになっている

    泥に足を突っ込んでしまった文句をぶうぶう言いながら
    あくせく上って二時間で永山岳2046,mの頂上
    火山らしい金属の色した荒涼とした山肌が強い風に吹かれている
    姿の良い旭岳も凛々しく見える
    眼下にモコモコとたっぷり育った美味しそうな雲海
    腰をおろしてひと休みしようと思った平らな岩の上には
    なぜか「田中」と文字が刻んである
    岩を彫るのなんて、小一時間くらいはかかりそうなのに
    こんなところで何をしていたのか、田中さん

    まだ時間が早いので、稜線を歩いて
    並ぶ山々の小さな頂をたどりながらゆっくり降りていくことにする
    何にも遮られない風が強く吹くものの
    尾根は展望がよく、傾斜もなだらかだし
    植物もないので歩きやすい、とっても楽しいところだ
    ふんふん、とピクニック気分で歩く歩く
    あちこちで這い松の中でぴちっ、ぴちっとナキウサギの声がする
    案外すぐそばで鳴くのだ
    歩いている真横の松の中で鳴くので、なんとか姿を見てやろうと
    松の中に顔を突っ込んだり
    少し離れて十五分ほども黙って待っていたりしたもののなかなか姿は現さない
    一度だけぴちっと鳴きながら松の中にダイブする淡い茶色の丸い背中が見えたものの
    さてあれが本当にナキウサギかと言われれば、証拠はないわけで
    私はいったい、ナキウサギを見たか

    山々は二人羽織のように同じ裾の中にもぐっていて
    頭だけちょっと出しているような感じの頂をはしごしていくので
    正直言ってどこが頂上なのかいまいちよくわからない
    当麻岳という頂上の標が見えてきた後
    かなり傾斜の急な崖をよじ登った直後に
    這い松の中に埋もれて、道がまったくわからなくなった
    詳細な地図も持っていない
    この時期の日暮れは五時少し前
    検討つけて進むこともできるけれど、時間を考えると
    今ここで道を間違えて進んでしまえば引き返すこともできなくなる
    いつも下り道で左膝を痛めるから下りでペースアップはできないのだ
    日暮れまでに無事に引き換えすことを第一とすれば今来た安全な道をたどるがベストだった
    涙を飲んでまた永山岳頂上までの道を上り
    来た道を下って帰ることとした

    いいよ、いいよ、一番景色のいいところだからね
    往復してもいいのだよ
    と呟きつつ、今来た道をとって返す
    帰りの道は往路では姿を見せなかったシマリスが
    頼みもしないのにぞろぞろと出てくる
    すぐ足元を走り去っていく
    よく見るとほほの下あたりになにかたくさん咥えてる
    忙しくって人間を警戒してるどころの話ではないのだろうか
    行きには東向きに低かった日差しの眩しさではっきりとは見えなかった姿のいい滝も
    帰りは見事な紅葉の中にはっきりと見ることが出来た

    左膝が痛んできて
    ほとんど上るときと同じくらいのペースでしか下れない
    秋の早い夕暮れがやってきてぐんぐんと周囲の色が薄墨の色に溶けていく
    少し、心細いようだ
    最後の一キロくらいは完全な夜の風景だった
    夜の山を歩くのは、初めてのこと
    今までほとんど見たことのない
    昼を支える、世界の半分

    下りきった時は六時よりほんの少し前だった
    のろのろと下ってきたもんだ
    今日はよく歩いた

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