オホーツク移住生活
雨の釣り
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雨の釣り日記 2006年10月07日
家の裏の渓流にぽとん、とルアーを投げ込んだら 雨が降り出した ため息の底みたいに深い色した緑の水の水面に 丸い波紋が次々広がる 濡れて居たかったのでそのまま 魚を待って川面を見ていた
魚たちは
この流れの速い水の中で
鼻先を上流の方に向け
上手に計算された無駄のないきれいな流線型の体を揺らして
川面にしずくが落ちるのを見ているだろうか
冷たい水の中で生きるので、冷たい体をしている
人がじかに手を触れると火傷をしてしまうのだという
もちろん
冷たい水に生きる生き物は
温い空気に生きる生き物から
勝手に接触されたくなどないのだ
この薄い水の膜一枚隔てた上で
他の者たちがどんなすばらしい生活をしてようとも
水の膜一枚がどれほど容易に打ち破りやすいものであっても
断じて勝手に踏み込まれたくはないのだ
雨足が強くなってくるけれど
ずぶ濡れで居たかったので
もう少し川を見ていた
朽ちた色の葉っぱがくるくると回りながら水に流される
魚があちらで
私がこちらで
だから
細い糸と銀に光る針を使ってしか
私は水の中の世界と交信できない
魚は
もしかするとそれを食べるものだと思って
あるいはもしかすると好奇心から
私の針を掴むかもしれない
私は細い糸の向こう側で命の躍動を感じて
細い糸を伝って生きる興奮がびんびん伝ってくるだろう
情熱的な命の爆発か
それとも絶望的な死の拒絶か
とにかく魚はとても感動的な必死の躍動をして
私に水の中、という世界の別の半分を連想させるだろう
どうしてもっと真剣に生きないのだろう
閉じ込められた世界の半分を見ると
私は時々不安な気持ちになる
昼を支える夜という世界
陸を支える水という世界
光を支える闇という世界
なぜいつも皿にのった食物を食うのか
なぜいつも決まった場所に寝るのか
なぜいつも雨を避けるのか
なぜ今日の食事があるのに、十年後の食事を気にするのか
なぜいつも頑なに気づかぬふりをするのか
雨は音を立てんばかりにますます川面を叩きつけて
魚たちはひっそり動かない
コガラたちもどうやら行ってしまったようだ
私は静かに竿を畳む
雨に濡れることや道に迷うことは
時々、世界の中の自分の位置を教えてくれる
つまり
非力で孤独で不安だけど
世界の中の誰ひとり、それらを責めていないという
そんな命の成り立ちを語ってくれることがある
