オホーツクグルメ
昭和のケーキ3

- 昭和のケーキ3 *メレンゲと苺の謎*
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卵白をボールに入れ
親の敵とばかりにがちゃんがちゃんかき混ぜる
卵二個分のテレンとした卵白だったものがボール一杯分の泡になる
砂糖を入れてさらに泡立てると肌理が揃って艶のある美味しそうなふわふわメレンゲができる
砂糖をもっと入れる、溶かしバター、卵黄、振るった小麦粉、膨らし粉を入れる
バターを塗った弁当箱に流し込んで
フタをして余熱した魚焼きグリルに放り込む
あとは祈る
レシピは子供の頃
オーブントースターと弁当箱でケーキを焼いていた日々のことを思い出して
二十年前の記憶と勘と目分量とフィーリングでアレンジをした
膨らませ方は主に卵白の泡であるメレンゲと補助的に膨らし粉をいれている
昨今の膨らし粉はもちろん品質も安定してるし手に入りやすいし安価なのだけど
ホットケーキのような焼き菓子の口当たりを軽くしたりするために少し使うのであって
考えてみればショートケーキのように本当にふわふわと高さをだしたいときというのは
膨らし粉の多用をするわけでなく、やっぱり結構疲れる思いをして卵を泡立てる
そういえばなぜなのだろうと思ってちょっと調べてみると
最近のレシピでは膨らし粉を全く使ってないものが多く
主流は完全に卵を泡立てるほうなのだ
あろうことかアンとローラの夢の粉「膨らし粉」はすでに追いつき追い越されていて
今は夢の「ハンドミキサー」で電力が卵を泡立てる時代
卵の泡立てがそれほど手間も時間もかからないのであれば
わざわざ食品添加物で膨らませなくてもいいのか
泡の安定の仕方からして、卵の気泡の方が最終的な口当たりもよくなるのかもしれない
で、我が家にはハンドミキサーはないが
やっぱり殆ど何も考えずに泡立て器を構える
卵をぴんと角が立つまで泡立てるというのがあんまり大変なので
特別なケーキを作ってるんだぞ、という気が十分するし
ボールの中で盛り上がっていく泡を見ていると本当に膨らみそうな気がしてくる
ケーキは泡の力で膨らんでるんじゃなく
作る人の「膨らむぞ」という気持ちによって膨らんでるのかもしれない、案外。
実はこの一号ケーキはあえなく失敗する
膨らみ方は生地の状態の1.5倍くらい
メレンゲと膨らし粉を併用してるわりには膨らんでないけれど
これ以上になるとグリルの天井にくっついてしまうのでまあこれでいいとするが
問題は上の方から焦げ初めているのだ
グリルは中の温度があまり上がらない上に天井が低いので
焼ける前に上だけ焦げ初めてしまうし
膨らむ前に泡が消えてしまうのだ
人生とは失敗である、失敗せよ若人よ
二号ケーキは焦げやすいバターを型に塗ることをやめ
その代わりに熱の伝わりを均衡にするようにアルミホイルを敷き詰める
せっかっく作った泡が消えにくいように砂糖を増やして生地を作る
生地を流し込んだら上は膨らむ余地を残してアルミホイルで二重に蓋をし
その上から弁当箱の蓋もする
余熱した魚焼きグリルに入れる
あとは再び祈る
焼き上げる間に時を惜しんで昭和のケーキの心臓、デコレーションの仕込み
ジップロックにチョコレート片を入れて湯煎にかけ
チョコレートがとけたらジップロックの角を少しだけ切って搾り出し袋にし
開いた牛乳パックの上にhappy birthdayと一筆書きで搾り出す
寒天をお湯で煮溶かして寒天液を作り
缶詰の果物の上から塗って果物をてかてかに光らせる
これも牛乳パックに並べてどちらも冷まして固める
できるだけ、垢抜けない、こってりしたデコレーションが作りたかった
狙いはなかなか上手くいっている
実は今回のデコレーション、苺は無い
かの「とちおとめ」の大産地栃木生まれの同居人、苺は酸っぱいからいらない、という
むしろ私の憧れの「高価な果物」なのでなんなら無理やり載せたくもあるが、そうもいかない
あんなに甘い果物の、どこが酸っぱいと言うのだろう、と不思議だったのだけど
どうやら「昭和の苺」は本当に酸っぱかったのである
同居人が言うには子供のころ食べていたのが「日光いちご」という苺で
甘いのと酸っぱいのがあるので
一口食べてみて酸っぱければ砂糖と牛乳をかけて食べたのだとか。
そのあと十年くらいの間苺を食べた記憶はなくて、
社会人になってから食べた苺は甘かった、という
私は砂糖をかけなければ食べられない苺なんて見たこと無い。
一時期栃木県で取れるいちごを日光いちごと表示していたらしいのだけど
どうもそれは品種の名ではないようで、栃木で主流の品種は
ダナー(昭和25年頃)→宝交早生(昭和35年)→麗紅(昭和51年)
→女峰(昭和60年)→とちおとめ(平成2年)
と遷移したらしい(カッコ内は登録年)
このダナーというのが「ぴくっ」とするほど酸っぱかったようなのだ
それがもともと酸味に強くない子供の味覚に「あの赤いのは危険だ」と刷り込まれてしまったらしい
今の「とちおとめ」など、果物の中でももっとも甘い果物の部類に入るんじゃないかと思うのだが
刷り込みとあっては致し方ない
残念だが今回はトロピカルフルーツの缶詰とチョコ文字でデコレーションすることとした
二号ケーキの焼き上がりは随分良くなった
焦げてないので見た目がぐっとケーキらしい
市販のケーキに比べるとかなり硬くて重いのだけど
これはもう、仕方ないのだ
私のミッションは昭和のケーキの憧れを復刻することであって
最高級品質のケーキを作ることではないのだから
少々硬くてもとにかく円形のスポンジを焼くことの方に意義があるのだ
水気が抜けて硬くなり始めてる上辺と下部を削ぎとると高さが少し減るので
もう一枚同じ生地を焼いてレイヤーにすることとする
三回目の卵白あわ立て、ぐったり
